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とりとメモないこと

本や映画の感想など徒然なるままに書きます。140字に慣れすぎて長文が下手ですが、生暖かい目で見守ってくだい。

『君の膵臓をたべたい』と“名前”について

こちらのページにお越し頂き有難うございます。

『君の膵臓をたべたい』の名前に関することなどのネタバレを含みますので、未読で絶対にネタバレしてほしくない方はご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 2015年のある時から、「キミスイを読みました。」というコメントと共にSNS上で大量に薄ピンク色の装丁の本の写真がアップされ始めた。『君の膵臓をたべたい』という奇抜なタイトルで、更には「号泣した」などみんなが口を揃えて言うのである。しかし、私は捻くれ者なので活字離れといわれる昨今、じわじわと拡散されるその「読了しました写真」を見る度に読む気を削がれていった。じゃあ何で読んだのか、それはやはり薄ピンク色の装丁が可愛かったからだ。(わたしも十分ミーハーなのであった。)

 

 この物語の主人公は、ひょんなことからヒロインである桜良の秘密を知ってしまい、彼女と奇異な付き合いをしていくことになる。桜良は重い膵臓の病気を患っており、余命まで宣告されていた。この作品の題名である『君の膵臓をたべたい』は、実は序盤に主人公と桜良の会話の中で出てきている。ラストの方にも出てくるのだが、こちらは少し意味合いが異なっている。この変化の過程が物語の主旨となる。

 

 主人公は他人から名前で呼ばれているのであろうが、読者はラストの方まで知ることができない。名前の部分が「【秘密をしるクラスメイト】くん(P10)」や、【地味なクラスメイト】(P73)」という表現になっているのだ。本当にそう呼んでいるのか?ちょっと厨二臭いなぁ…と思っていたが、途中から桜良に「【?????】くん」と呼ばれ始める。これは、他人が主人公の名前を呼ぶときに、主人公が自分に対しての感情をどのように感じたかを表していたのだ。主人公は自分の名前を呼ぶ桜良の気持ちを推し量れず、【?】を並べていた。ここが少し気になるポイントである。この時点でもうお互いが必要な存在であることは読者からしたら自明であるのに、何故「【大好きな人】くん」などにならなかったのだろうか。余命幾ばくの少女が主人公に寄せる気持ちは「好き」などでは表せなかったのだろうか。主人公が最期まで桜良の名前を呼ばなかった理由と同じように、その感情に名前をつけるのが怖かいから、あえて【?????】にしたということもありえる。それとも、自分のことが好きだなんてまさか…のような謙遜もあったのかもしれない。この主人公の名前の隠し方はとても良いと思った。(名前が隠される他のラノベは知っている中で、『みーまー』こと『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』がある。あの作品は主人公の名前を「✖✖」と表記していた。これも名前が鍵を握っていてとても面白かった。※元気な時に読みましょう)

 

 桜良と2人で福岡へ行く道中、こんな会話をしている。

「そういえば、【仲良し】くんの下の名前ってなんだっけ?

〔中略〕

そして僕は自分のフルネームを控え目にくちずさむ。

「君みたいな小説家いるよね?」

「そうだね、どっちが思い浮かんでるのかしらないけど」

引用元:『君の膵臓をたべたい』(作:住野よる) P80

この会話から、「2人の小説家の苗字か名前が組み合わされた名前」というヒントが与えられるが、それ以降“ヒント”らしきものは見受けられない。その気になる名前が明かされるのは、桜良の母との会話である。

「そうだ、下の名前はなんていうの?」

お母さんの何気ない質問に、僕はきちんと振り返り、答えた。

「春樹です。志賀春樹、といいます」

「あら、そんな小説家いるわよね?」

僕は驚いて、それから口に笑みが浮かぶのを感じた。

引用元:『君の膵臓をたべたい』(作:住野よる) P261

 ここで、私がこの本を手に取るきっかけになった“薄ピンク色の装丁”とは、桜のイラストのことである。そして、桜良は春樹に「ねぇ、桜がどうして春に咲くか知ってる?」(P185)や、桜は春を待って咲くということ、とある手紙の中でも「桜が、春を待っているみたいに」(P253)という一文を書くなど、度々“桜”と“春”を結び付けた話をする。桜良は春樹に特別な感情を抱くことの中で名前の観点から、自分(桜良)は彼(春樹)と出会うべくして出会ったのだと思っていたのだろう。桜は春を待って咲くのと同じように、桜良は春樹と出会って必要とされるのを待っていた。

 

 はぁ、なんて素敵なんだ…この手のものに本当に弱くて、こんな関係と出会う度に「尊い!!!!!ありがとう!!!!!」と感謝せずにはいられない。個人的には最後に名前を明かすことによって、桜良が桜と春の話をする意味が分かり、春樹に寄せる想いを知ることができたと思っている。誰か気になる人や好きな人と好きな食べ物や血液型が同じだったり、誕生日が近かったりクセが似ているなど、何か共通点を見つけて「あぁ、この人と出会ったのは必然だったのかもしれない」(必然とまではいかなくても縁があるなど)と思う心理である。(そんなの少女漫画の話だろ…なんてことはないはず!)桜良が“桜”と“春”の話をする度に「好き」だと告白しているようにさえ思えてくる。はぁ、なんて素敵なんだ…(2回目)。

 

 最初から主人公の名前が明かされていたら、桜良が桜と春の話をするのは見え透いていて面白くないだろう。名前を隠すとこによって、桜良の想いも一緒に隠していたのだ。前文にも書いたが、桜良が「春に桜が咲く理由」を春樹に問いかけるシーンがある。桜が春を待って咲くという話をすると、春樹は「君の名前にぴったりだ」と言い、桜良は「奇麗だから?」ととぼけることに対して春樹はこう返す。

「……そうじゃなくて、春を選んで咲く花の名前は、出会いや出来事を偶然じゃなく選択だと考えてる、君の名前にぴったりだって思ったんだ」

僕の意見に、彼女は一瞬きょとんとしてから、とても嬉しそうに「ありがとう」と言った。〔中略〕彼女がそんなにも嬉しそうにする理由が僕にはわからなかった。

引用元:『君の膵臓をたべたい』(作:住野よる) P186,187

  春樹の名前を知っていると、「鈍感め~~!!!!」と思わず言いたくなるが、名前を隠されていれば読者も春樹のように首をかしげるか、この文の本当の意味を知ることはできないだろう。1周目は読者は鈍感な主人公と同じ目線で物語を読み進め、2周目は桜良の想いがありありとわかり、楽しむことができる。二度おいしい作品なのである。

 

 この物語の全体としては、どこかで読んだ・観たことのある作風(『四月は君の噓』など)で、少し型破りな部分はあるが、大元はお決まりのパターンで構成されている。よって、この作品全てを素晴らしい!と大絶賛するには至らないのだが、読後は前向きな気持ちになり胸が温かくなる素敵な作品である。住野よるが書く物語をもっと読みたいと思わせるには十分な処女作であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんなに稚拙な文章を最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

ちょっとおかしいところがあったら教えて頂けると嬉しいです。

全部のネタバレはしていないので、未読の方も楽しめるかと思います!

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本当にありがとうございました。